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《ミュラード!》

「13キロ」と「ストライカーの血」

80分間にわたり右へ左へ、前へ後ろへと走り回っていたミュラーの体力は、すでに底をつきかけていた。それでもトーマス・ミュラーは、もう一度歯を食いしばり全力でダッシュし、バルサディフェンダーのジョルディ・アルバとピケを抜き去ったが、キーパーのヴァルデスに止められた。これで最後の力を使い果たしたミュラーは、体力の限界に達したことをアピール、途中交代を希望した。
「打撲した上に、筋肉の裏側もつってしまった」とミュラーは試合後に語った。

ミュラーはピッチ上で今しばらくクラウディオ・ピサーロの準備を待つことになった。立っているのが精一杯だったミュラーは、「気づいたら入っていた」と得点シーンを振り返ってにやりと笑った。フランク・リベリーが駆け上がってきたアラバにスルーパスを通し、アラバのグランダーのクロスに中央で合わせ4点目を決めたのが、他ならぬトーマス・ミュラーだった。試合後にUEFAのマン・オブ・ザ・マッチを受賞したミュラーは「最高の気分、夢のような瞬間だった」と感想を述べ、こう説明した。
「なんとかゴールエリア内に立ってボールを押し込むだけの余力だけが残っていた」

このゴールを最後にピッチを後にしたミュラーを、65,000人のバイエルンファンはスタンディングオベーションで見送った。FCバルセロナを4-0で大破したFCバイエルンは、チーム全体が一丸となり魔法のようなサッカーを繰り広げたことは言うまでもない。だがその中で2ゴール、1アシストの大活躍を見せたミュラーは、ひときわ輝きを放っていた。それだけではなく、アリエン・ロッベンが決めた3点目のシーンでも、ミュラーはバスケットボールのブロックを思わせるようなプレーで、ロッベンのシュートスペースを生み出していた。
「せっかく気の利いたプレーをしたんだから、そのまま(ファウルの笛を吹かずに)流してくれてよかったんじゃない ?」とミュラーはウィンクをしながら語った。

持久走

バルセロナ戦でも勝利への鍵を握っていたのはバイエルンのチームワークだった。FCBは、マリオ・ゴメス、リベリー、ロッベン、ミュラーの攻撃陣までもが、しっかりと自陣に戻り守備をしていた。
「全員ががんばって戻って働く覚悟を決めていた」とユップ・ハインケス監督も称賛した。フィリップ・ラームはこう付け加えた。
「彼らのようにボールポゼッションを得意とするチームにゴールチャンスを与えないためには、全員がボールより引いて守ることが必要となる」
さらにリベリーはこう明かした。
「監督にも言ったけど、今回は左サイドバックとしてプレーしたよ」

こうして結成された固い守備に加え、バイエルンは特に後半はパワフルな攻撃力でバルサ守備陣を撃沈。ピケをはじめとするバルサディフェンダーは、体力をどれだけ使い果たそうが、諦めることなく自分を信じてプレーし続けたオーバーバイエルン出身のミュラーをはじめとするバイエルンの攻撃陣を抑え込むことはできなかった。
「僕が相手の選手を3、4人も華麗にかわして突き進むことなど、一生お目にかかれないかもしれないが、13キロぐらいならいつでも走ってやるさ。僕にはストライカーの血が流れているのさ」とミュラーはいう。英国のタブロイド紙《ザ・サン》が昨夜の試合に《ミュラード!》(「ミュラーにやられた」という言葉遊び)というタイトルをつけたのも無理からぬ話だ。